若手女優の戦いになりそうなのが助演女優賞である。この部門は将来有望な若手が受賞することが多いが、今年もどうやらそのセンで落ち着きそうだ。

　ただし、戦いは熾烈を極めている。レイチェル・ワイズ（ナイロビの蜂）、ミシェル・ウィリアムス（ブロークバック・マウンテン）、そしてエイミー・アダムス（Junebug）が接戦を繰り広げているのだ。しかし、その中で最もオスカーに近いと言われているのは、ワイズである。前哨戦前半はそれほど伸びなかったのだが、ゴールデン・グローブ賞とアメリカ映画俳優組合賞を連続受賞して勢いに乗っている。対象作の受賞チャンスはどうやらワイズにしかないように思われ、票が集中することは確実だ。ハンガリー系ユダヤ人であること、イギリス女優であることも有利に働くに違いない。多くの人が彼女の受賞を予想するだけの材料は、確かに揃っている。

　ウィリアムスが浮上するのは、対象作が作品を総ナメする勢いを見せたときだ。ワイズと違い、作品の支持票がウィリアムスに集中するとは思えない。ただし、彼女が演じた「耐える妻」の役は、オスカー会員が最も愛するタイプのそれである。そして、助演女優賞部門は特にその傾向が強い。ブロードキャスト映画批評家協会賞を受賞しているほど、その抑えに抑えた演技は評価が高く、ワイズを打ち落とす可能性が最も高いのが彼女だと言われている。ただし、TVシリーズ「ドーソンズ・クリーク」のイメージは大いにマイナスかもしれない。

　「受賞するべき」と言われているのはワイズでもウィリアムスでもない。アダムスである。映画ファンでも知らない人が大半だと思うが、妊娠中の主婦をユーモラスな味わいで演じて突如ブレイクした新星だ。「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」でレオナルド・ディカプリオと共演した女優というと、ピンと来る人が多いかもしれない。夏に封切られた対象作は評論家の絶賛を浴び、中でもアダムスの明るい個性は高い評価を得た。そしてそれは2005年最高レヴェルの評価と言っていいものだった。つまり普通に演技の評価をしたらアダムス勝利の可能性が高いということだ（この部門で強い喜劇演技で、なおかつそれが一人だけというのも強み）。ところが、この映画は全くヒットしてない。興行成績は僅か200万ドルに留まっている。これはウィリアムスの1/37、ワイズの1/16という低さだ。会員には作品のDVDが送付されているとは言え、全員が観るわけではないだろう。既にある程度の知名度を持っているウィリアムスやワイズと違い、交友関係から票を投じられる可能性も限りなくゼロに近い。要するに彼女は、ライヴァルたちと違い、「演技の質」だけで勝負しなければならないということだ。本来これがあるべきオスカーの姿とは言え、やはりこれは不利と言わざるを得ない。前哨戦ではそれを跳ね飛ばして圧倒的な支持を得た。もし受賞させたらオスカー会員は偉い。

　残りふたりはヴェテランのフランシス・マクドーマンド（スタンドアップ）とキャサリン・キーナー（カポーティ）である。このうちマクドーマンドの受賞はまずない。マリア・ベロ（ヒストリー・オブ・バイオレンス）を押し退けての候補入りには疑問の声が多数挙がっているし、本人も獲れるとは思っていないだろう。だが、キーナーにはまだチャンスがある。キーナーの武器はこれが２度目の候補であり、なおかつ前回はオスカーを獲っていないということだ。功労賞的な意味合いの票があるに違いない唯一の女優がキーナーなのだ。最も「助演女優」的な女優という点も高ポイントだ。おそらく対象作の支持票はフィリップ・シーモア・ホフマンに流れるが、もしホフマンの票が予想よりも伸びなかったときは、彼女に票が雪崩れ込んでくる可能性もあるだろう。一発逆転のポテンシャルを大いに秘めている。

　普通に行けばワイズだろうが、今年の候補者の中で最もフレッシュな、そして「受賞するべき」と言われているアダムスの勝利を祈る。