スペシャル・レポート 〜Tiさんと遊びましょ〜 |
そのメールが届いたのは、2001年11月7日だった。以前オスカー授賞式のビデオを送っていただいた縁で仲良くしてもらっていたTiさんが、「年末年始で空いている日はありますか?和歌山の実家に帰省するのですが、良かったら行きか帰りに会えないかなと思って」と書いてきたのだ。読んだ僕は飛び上がった。同い年ということもあり、気が合って1か月に数回はメール交換をしていたTiさんと会える。こりゃなかなか楽しそうじゃないか。ネット上で知り合った方と会う機会なんて、なかなかない。もしかしてネット上では好青年のTiさんがとんでもない犯罪者だったらどうしよう、そして殺されちゃったらどうしよう、なんてことも一瞬頭をかすめたが、いやいや、Tiさんの文章からにじみ出るあの好青年ぶりは心に闇を持つ人間のものじゃない。そうに決まってる。いや、そう決めた。それに万が一犯罪者だったとしても、あんな文章を書けるなんて相当な頭の持ち主。それなら殺されても悔いはあるまい。―
といういきさつを経て、Tiさんと僕は2002年1月2日に会うことになった。 その日は、朝からかなりソワソワしていた。以前もネットで知り合った方とお会いしたことはあったが、今回は12時30分から20時過ぎまでずっと一緒、もちろん昼も夜も一緒にご飯を食べる。僕は初対面の人でも話せないことはないが、かなり大きく精神的な距離をとる。決して心を許しはしないし、顔で笑っていても心の中じゃ「コイツとは仲良くなれんな」なんて知らぬ間に分析していることがよくある。決して人と会うことは好きなタイプじゃないのだ。そんな僕なのに、今回はものすごくワクワクしていた。自分でもこの頃なんだかハイテンションになってるな、とは思っていたのだが、これは絶対にTiさんと会うことになったのが原因だと思う。 Tiさんは12時半に到着予定。待ち合わせ場所はJR名古屋駅の中央改札口だ。28分に電車は来る予定なのに、30分を過ぎてもTiさんは現れない。うーん、もしかしてハメられた?とは思わなかったが、電車が遅れてるのかなぁと漠然と考えていた。この日は風が非常に強く、改札口にも風が強く吹きつけている。寒い寒い。凍える身体を暖めようと改札口周辺をブラブラしていると、携帯電話が鳴った。「電車が遅れて、今着きました」。やっぱりね。ついにTiさん到着だ。音楽が鳴り響く。僕は勝手に頭の中でイメージ・ミュージックを鳴らす癖があるのだ。今回鳴ったのは、なぜか「ゴジラ」のあの音楽だった。Tiさん名古屋に現る。そんなタイトルまで頭に浮かぶ。Tiさんが僕を見つけた。おぉ、Tiさんだ。思わず顔がニヤつく。 Tiさんは想像以上に好青年だった。背は高いし、顔は小さい。そしてハンサムでもある。段田安則を思いきり若く男前にした感じだ。Tiさんはメールでは自分の容姿についてまったく語っていなかったのだが、そうか、この容姿を自慢しないなんて、さては会うときに僕を敗北感で打ちのめそうという魂胆だね、なんて捻くれたことを一瞬考えたが、その後の外見通りの好青年ぶりの挨拶にそれも吹き飛ぶ。「初めまして、ヨシです」「Tiです」。互いに自己紹介をし(実際は本名で)、握手をして、まずはTiさんの荷物をロッカーに預けに行った。 うーん、それにしてもこんないい男だったとは、Tiさんがそんなつもりはないとはいえ、かなりの敗北感である。自分の容姿なんて、当分見たくもない。そうか、自分は今までこんないい男とメールを交換してたのか。うーん、絶対に勝てないよなぁ。なんてことを考えながら、僕はTiさんにビデオのお礼の映画ポスターを贈った。そしてTiさんはお土産のケーキを僕にくれた(Tiさんの実家はケーキ屋なのだ。ケーキ持ってきてくれるなんて、そんな気遣いいいのに…でも嬉しい)。 そんなこんなで、まずは昼食である。どうせなら名古屋名物と言われているものがいいかなぁと思っていた。名古屋名物と言われているものには、味噌カツ、てんむす、味噌煮込み、ういろう…等色々あるが、地元の名物なんて僕だって毎日食べてるわけじゃないし、いいかなぁと思ったのだ。そこで僕が選んだのはきしめんであった。そのきしめん屋、もちろん僕は入ったことがない。なので美味しいのかどうかはまったくわからない。わからないがいいのだ。あらかじめ味の良し悪しはわからないということを伝えておいたら、Tiさんは快く毒見役を引き受けてくれた。ありがたい。もし味が良かったらデートでも使えばいい。Tiさんとの出会いのシチュエーションでさえ、こんな打算的なことを考えるなんて…うーん、そんな自分がちょっとだけ好き。 そのきしめん屋は混んでいた。そりゃそうだ。お昼時、しかも正月である。福袋等が新春大売出しになるし、店が入っている高島屋は去年できたばかり、みんな来てみたいのだ。しばらく外で待たされ、座敷に通された。Tiさんは「釜揚げきしめん」を、僕は「南蛮きしめん」を注文した。うーむ、きしめんなんてすごく久しぶりに食べる。もしかしたら5年ぶりぐらいかもしれない。さて、Tiさんの「釜揚げきしめん」はやけに底の厚い器に入っていたのだが、何が「釜揚げ」なのかさっぱりわからず、Tiさんはやや困惑していた。でもまあ、良いではないか。わざわざ名古屋できしめんを食べるというのに、わけのわからないものを注文してしまった自分、それもまた良い思い出だ。ちなみに僕の「南蛮きしめん」もあまりよくわからない食べ物であった。とりあえずあんかけになっていたのが珍しかったぐらいか。そもそも「南蛮」って何?食べながら考えていたが、Tiさんも僕もわからなかった。 40分くらいはそこにいて清算を済ますと、今度はゲームセンターを目指した。Tiさんを名古屋の地下街に引きずり込み、映画館街を通った。せっかく映画をきっかけに知り合ったのだから名古屋の映画館を見せねばなるまい。今じゃどうでもいいような気がするが、そのときはそう思ったのでやや遠回りしながら歩いた。…と歩きながら、気になっていたことをTiさんに言った。「そのコート、ちょっとオヤジくさいよね」。いくらネット上で仲良くしていたからといって、初対面のTiさんに向かっていきなりコートのオヤジくささを指摘するとは僕の神経もなかなか太いなぁと思いながら、つい言ってしまった。実は会ったときから気になっていた。せっかくセーターと紺のパンツというカジュアルな服装なのになぜコートだけオヤジっぽいのか。なんだかもったいないような気がしたのだ。Tiさんは「これは就職活動用に買った」と言った。なるほど…たしかにスーツにはピッタリ合いそうだ。しかしなぜそれをカジュアル服に合わせるのか。Tiさんのセンスに疑問を感じつつも僕は気になっていたことを口にすることができ、幾分すっきりした。おそらくTiさんはやや不愉快な気分になったと思われるが 、許してくれい。そしてもっと若者っぽいコートを着るように。元がいいんだからもったいないよ。 コートの指摘を済ませると目の前に巨大な人形が見えてきた。高さ5メートルはあると思われる。名古屋人の方はこれだけでわかると思うが、ナナちゃんである。ナナちゃんは名鉄「セブン」館の前にあるので「ナナ」ちゃんと言われるようになったという説があるが、果たして本当か。ということは今回はどうでもいい。問題はTiさんの反応だ。僕はナナちゃんは名古屋駅での待ち合わせによく使われることと、股下をくぐるといいことがあるという噂を教えてあげた。だがいまいち反応が鈍い。一応股下をくぐってみてはどうかと勧めたのだが、即効で拒否された。おそらく恥ずかしかったのだと思われる。うーむ、Tiさんめ、なかなかシャイな男とみた。 ついにゲームセンターに着いた。わざわざ会ってなぜゲームセンターなのかと思う方もいるかもしれないが、僕たちは別にゲームをやりに来たんじゃない。プリクラを撮りに来たのである。えっ、プリクラ?そうプリクラである。なぜプリクラを撮ることになったのかというと、同じくネットで知り合った東京のサキさんがTiさんと僕のツーショットプリクラをどうしても欲しいと言ってきたからである。Tiさんはともかく、なぜ自分のブサイク顔を、美人だと噂のサキさんに見せなきゃならんのか。なんだか自分が可哀相になってきたが、代わりにサキさんプリクラをくれるというし、まあいいかと割り切ったのだ。割り切ったのだが、着いた僕たちは思わずのけぞった。プリクラの機械はたくさんある。それはいい。それはいいんだが、そこにはうじゃうじゃと女子高生軍団がいたのだ。ぴーちくぱーちく騒いでいる彼女たち。その中に入っていく勇気が果たしてあるのか。Tiさんを見ると、予想通り顔を歪ませている。しかし、撮らねばならぬ。撮ってサキさんプリクラ をゲットするのだ。空いているプリクラを探し出し男ふたりは中に入り込んだ。Tiさんも僕もプリクラ初体験である。どうやって撮ればいいのか、さっぱりわからない。とりあえずお金を入れてみたのだが、なんだか知らぬ間に撮る5秒前になっていた。パチッ。1回目の撮影が終わると、僕はリュックからサングラスを取り出した。プリクラ撮るなんて恥ずかしいなぁ、なんて思っていたのだが、ただ撮るだけじゃつまらんかもとも思い、ちゃっかり小道具を用意していたワタクシ。果たして本当に恥ずかしいと思っているのかと自分で突っ込みながら、2回目も撮り終わった。一応言っておくとTiさんは小道具を用意してきていなかった。いかんよ、いかん。気合いが足りんよ。しかし、こんなところで気合いなんて使いたくもないというのがTiさんの本音であろう。できあがったプリクラ、案外普通に撮れている。ただし僕の顔が非常にデカい。そうだった、Tiさん小顔だったのだ。一緒に並べば必然的に僕の顔がデカく映る。おのれ…Tiさん、ちょっとは僕に合わせてくれよ。ブツブツ恨み言を言いながらそこを後にした。余談だが、サングラス・ヴァージョンは「マトリックス」っぽくちょっと気に入っ ている。 僕たちはちょっと早いが16時開始の『アメリ』を観るためにセンチュリーシネマに向かうことにした。この映画館はロビーが広く、飲食も自由でちょっとした喫茶店の雰囲気、暇つぶしも楽にできる。上映までの時間はそこでTiさんと話せば良い。地下鉄で3駅、センチュリーシネマに到着した。ロビーにはすでに人がたくさんいた。空いている席は2、3席ぐらいしかない。東京で大ヒット中だという『アメリ』、名古屋でも大人気なのだ。しかしチケットを獲れるのか、なんて心配はしなくて良い。なんと僕は、午前中第1回の上映前に16時の回のチケットをゲットしていたのである。この僕の素晴らしい手配にTiさんは感激している様子だ。しかも整理番号はNo.001とNo.002。一番に劇場に入る。こんなこと、滅多にないぞえ。Tiさんの感謝は正しいと言えよう。 さて、開場まで1時間くらいの間に色々な話をした。ネットの話、映画の話、プライベートの話。イチイチ書いてたら切りがないので省略するが、どの話もとても楽しかった。実は会う前にはふたりとも黙りこくり、暗ーい雰囲気になったらどうしようという不安もあったのだが、それは杞憂に終わった。メール交換で色々話してるうちにすっかり気持ちを許していたせいか、冗談の飛び交う楽しい1時間が過ごせた。Tiさんもそうだと思うが、僕は初対面と人にベラベラ喋るようなことは決してしないタイプなので、今回はかなり特殊な例と言える。 いよいよ開場である。先に書いたように、一番乗りで劇場入りするのが僕たちだ。新年1発目の映画が『アメリ』というのはなかなかステキだ。しかしそれを男ふたりで観るという事実。しかも一番乗りするという事実。さらには映画館のど真中に場所を確保するという事実。これはいかなるもんじゃろか、という疑問がふたりの頭によぎった。周りを見渡せばカップルだらけである。その中にいる男ふたり。いちばんの特等席に座った僕たちは、どう見てもゲイ・カップルであった。おまけに予告上映の一発目が、ゲイが主人公の『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』だったというオチまでつき、ふたりは苦笑せずにはいられなかった。 『アメリ』を観終わると、再び名古屋駅に戻り夕食である。今度はしゃぶしゃぶだ。せっかく会うのだから豪華にいこうという意見で一致したふたりは、予約を済ませてある名駅地下の某店に向かった。座敷に通され、注文である。僕は注文をTiさんに頼んだ。昼のきしめんも夜のしゃぶしゃぶも提案したのは僕だから、せめてメニューぐらいはTiさんに選んで欲しいと思ったのだ。するとTiさん、食べ放題宴会コースを注文しているではないか。食べ放題、それはいい。宴会コース、それもいい。僕が驚いたのはそのお値段である。なんと5000円と書いてあるではないか。ご、5000円?僕は3000円ぐらい出せば結構なものは食べられるんじゃないかと思っていたので、この金額にべっくらこいた。しかしTiさんは平然としている。そ、そうか。もしかしたら東京じゃ夜食べるときはこれくらい出すのが普通なのかもしれない。それにここで別の安いものを提案したら選んでくれたTiさんに悪いよな。そんな考えが浮かび、結局そのままそれを頼むことになった。うーむ、Tiさんめ、なかなか大胆なことをするなぁ。 ところでふたりはしゃぶしゃぶ屋に入るのも初めてであった。なので、どうやればいいのか、さっぱりわからない。とにかくどんどん野菜を放り込み、沸騰してきたところで肉をしゃぶしゃぶするという素人丸出しの方法で食べ進めていった。うーん、しゃぶしゃぶ、美味。味を楽しみながら、またしても色々な話題で盛り上がった。 沈黙もあった。ただし、大切なのは、苦痛な沈黙ではなかったこと。沈黙が重くのしかかるというのではない。親しくなると沈黙も気にならなくなるが、そういう境地にふたりは達していたのである。メール交換していたとはいえ、なぜ沈黙すら心地良いのか。なんだか嬉しいじゃないか。 さて、座敷ということであぐらをかいていたのだが、実はふたりともあぐらが得意ではなかった。楽なのであぐらで座りはするのだが、すぐさま痺れるのだ。共通の悩み…というほどでもないが、メール交換によると、とにかくTiさんはあぐらが苦手のようだった。そこで自分のことを棚に上げた僕は、会うときまでに鍛えておくようTiさんに指令を出していた。そしてその本番がこの日なのである。Tiさん、訓練の成果をとくと見せてもらおうじゃないか。が、先に痺れたのは僕であった。15分もすると、足が痺れてしょうがない。Tiさんは大丈夫なのだろうか。もしかしてあぐらで座っていないんじゃないか。疑惑を抱いた僕は、わざわざ机の下を覗いてみたのだが、うーむ、たしかにTiさんはあぐらだ。ここで先にあぐらを崩すのはあまりにカッコ悪い。し、しかし、辛い。どうしようもなく辛い。根性なしの僕はあっさりあぐらをやめた。Tiさんはそんな僕を笑いながら見ていたが、おそらく心の中では呆れていたに違いない。Tiさんは約2時間あぐらのまま過ごした。ホントに苦手なのかえ?でもまあTiさんが嘘をつくわけないし。完敗。悔しい二文字が目の前に突きつけられた。それにしても正座 じゃなく、あぐらなのだ。あぐらで苦しむ男、それが僕だ。おのれ…再戦はいつか必ず…。 会計を済ますと、いよいよお別れである。なんだかすごく寂しい。駅に向かいながら、ふと思い出す。そう言えばこの時期、名古屋駅のイルミネーションが評判なのだ。Tiさんを名古屋に引き止めるべくこれを見せようじゃないか。ふたりは地下から地上に上がった。すると、そこには雪が…。なんと今シーズン、初雪が降っていたのだ。さ、寒い。雪がどうこうよりも、まず寒い。そんな中ふたりはイルミネーションを目指す。イルミネーションはさすがにキレイだ。凝っている。しかし、この寒さの前にはそれも別にありがたくもなんともないというのがふたりの正直な気持ちだ。せっかくのイルミネーションだが、あっさり寒さに負けたふたりは駅の中に駆け込んで行った。 ロッカーで荷物をとり、いよいよTiさんが帰る時間がやってきた。うーん、ホントに寂しい。東京と名古屋。遠いようで近く、近いようで遠い。もうしばらくはTiさんに会えないかと思うとホントに寂しくなった。今日が終わってしまうのが、心底寂しい。しかし、これ以上引き止めてはTiさんが困る。Tiさんに帰宅したら電話するように頼み、握手をして別れた。 お土産のケーキ片手に帰宅した僕は、早速風呂に入り、ベッドに入って今日のことを思い出しながら電話を待った。―。 …と、どこからか着信音の音が聞こえる。携帯に出ると、そこから聞こえてくるのはTiさんの声。うーむ、無事着いたのね。…と、うっすら思いながら、翌朝を迎えた。ハッ。そう言えば、昨日の夜、Tiさんから電話があった。それは覚えているのだが、何を話したのかは全然覚えていない。なんていうことだろう。Tiさんとの別れを寂しく思い、雪の中Tiさんが無事帰宅できるか心配していたはずなのに、僕は毛布の暖かさに負けてぬくぬくと寝てしまった。そしてかけてきてくれた電話に寝ぼけたまま出た上、しかも何を話したか全く覚えていないという事実。一体僕は何者なのか。自分のあまりにもデカい態度を恥じ、僕は早速謝りの電話を入れた。Tiさんは笑って許してくれた。デキた人だ。しかしこの僕のデカい態度は良い結果も運んだ。案外気楽に電話で話せるようになったのだ。基本的に電話が好きじゃない僕だが、Tiさんの電話は別に苦でもなんでもない。むしろ嬉しい。こういう関係になれたのは、僕の功績によるところが大きいんじゃないか…というのは、ハイ、調子に乗りすぎ。 というわけで、今回のことでTiさんと僕はますます仲良くなった。Tiさん、これからもどうぞよろしく。 |
Tiさん管理 Across 211th Street |
Tiさんと仲良くしましょ企画 関連ページ↓ Feature 素晴らしき哉、Tiさん(&Yoshi)の『アメリ』語り |
January 17, 2002 |
Literary Miscellany |
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